接客の「属人化」をAIで解決する——香水ブランドFINCA様への接客AIチャットボット導入事例(Dify × RAG構成)
- chojun0529
- 5月9日
- 読了時間: 6分

「ベテランスタッフが辞めると、お店の売上が落ちる」——中小規模の店舗経営者であれば、一度は直面したことがある悩みではないでしょうか。
接客品質はその店舗の生命線です。しかし、その品質を支えているのが「特定のスタッフの頭の中にしかない知識」だとしたら、それは経営として極めて脆弱な状態にあります。
AI専門会社・合同会社あとらくしょん代表の長純です。今回は、香水ブランド THE KAORI BAR FINCA 様に納品させていただいたAI香水診断チャットボット「PILEUP」の開発事例を通じて、接客ノウハウの属人化をAIで解消するという考え方と、その実装の中身をお伝えします。
実際に動いているデモはこちらからご体験いただけます👇
なぜ香水ショップで「接客AIチャットボット」が必要だったのか
FINCA様は、約60種類のオリジナル香水を取り扱う専門店です。お客様が来店された際、スタッフが丁寧にヒアリングを行い、最適な香りを提案する——これがFINCA様の強みでした。
しかし、ここに2つの課題がありました。
ひとつは、接客品質のばらつきです。熟練スタッフと新人スタッフでは、提案の精度に差が出てしまう。香水という商品は「フローラル」「ウッディ」「シトラス」といった香調の専門知識が必要で、お客様の「なんとなくこんな雰囲気が好き」という曖昧な要望を、的確に60種類の中から絞り込むのは、相当な経験が必要です。
もうひとつは、来店前のハードルです。「興味はあるが、自分の好みをスタッフに直接伝えるのは少し恥ずかしい」というお客様も少なくありません。オンラインで気軽に試せる入口があれば、購買行動につながる——そんな仮説がありました。
そこで、約2,000通り以上の組み合わせの中から、お客様のシーンや好みに合わせて2本の重ね付けを提案するAI診断ツールを開発することになりました。
開発の主役は「秘伝のタレの言語化」
このプロジェクトは、生成AIコンサルタントの東健太氏(プロンプト工房)との共同開発として進めました。私が技術側の構築を担当し、東氏がクライアントとの要件定義・ナレッジ整理を担う、という分担です。
ここで強調したいのは、AIチャットボット開発の本質は「ツール選び」でも「プロンプト設計」でもなく、お店が長年積み上げてきた接客ノウハウを言語化する作業にある、ということです。
私たちはこれを「秘伝のタレの言語化」と呼んでいます。
たとえばFINCA様の場合、
フローラル系を好むお客様には、まずどの3本を試していただくか
ギフト用途の場合、贈る相手との関係性によって提案をどう変えるか
「推しキャラのイメージ」という抽象的な要望を、どんな香調に翻訳するか
——こうしたスタッフの頭の中にある判断基準を、構造化されたドキュメントに落とし込むことから始めました。これがRAG(検索拡張生成)におけるナレッジベースの土台になります。
元エンジニアとして言わせていただくと、ナレッジベースの質が低ければ、どれほど高性能なAIを使っても出力は平凡になります。逆に、暗黙知が丁寧に言語化されていれば、ノーコードツールでも十分に「そのお店らしいAI」が作れます。
技術構成 ——Dify + RAG + ベクトル検索
ここからは少し技術的な中身に踏み込みます。同様の取り組みを検討されている経営者・技術担当者の方の参考になれば幸いです。
採用したのは、オープンソースのAIアプリ開発プラットフォーム Dify をベースとした構成です。技術スタックを整理するとこうなります。
オーケストレーション: Dify(チャットフロー機能でルート分岐を構築)
LLM: Claude / GPT 系のAPIを用途別に切り替え
ナレッジベース: マークダウン形式のドキュメントをベクトル化し、Dify内蔵のベクトルDBに格納
検索方式: ハイブリッド検索(セマンティック検索 + キーワード検索の併用)
インフラ: Dockerコンテナ上のセルフホスト構成、NGINXでSSL終端
フロント: Difyが提供するWebチャットUIをiframe埋め込みでブランドサイトに統合
会話フロー自体はあえてシンプルに設計しています。
「自分用」「ギフト用」「推しイメージ」のいずれかを最初に分岐
選択ルートごとに質問テンプレートが切り替わり、シーン・季節・好みの強度を段階的にヒアリング
ヒアリング結果をクエリに変換し、ナレッジベースから関連する香水データをベクトル検索で抽出
抽出された候補に対し、LLMが「2本の重ね付け」という形に再構成して提案文を生成
診断結果から商品ページへ直接遷移できる導線まで一気通貫で設計
ここでのポイントは、LLMに自由に語らせるのではなく、ナレッジベースから取得したデータを根拠に出力させるという設計思想です。これにより、ハルシネーション(AIが事実でないことをもっともらしく語ってしまう現象)を抑え、FINCA様のラインナップに無い香水を提案してしまうような事故を防いでいます。
「2,000通り以上」というバリエーションは、香水60種類×用途3パターン×複数の選好軸の組み合わせから生まれます。事実上、お客様一人ひとりに対して個別にカスタマイズされた提案が届く仕組みです。
なお、開発期間中にはサーバーのメモリ増設に伴うRAG基盤の再構築という、なかなか肝が冷える局面もありました。ナレッジベースのインデックスを一から作り直す必要が出たのですが、ちょうどそのタイミングで Claude Code を業務に組み込めるようになっており、再構築〜デバッグ〜回帰テストのサイクルを大幅に短縮できたのは、AIエージェントの実用化を肌で実感した瞬間でした。
「うちの店でもできるか?」と感じた経営者の方へ
最終的に、FINCA様からは「これなら使えます」というお言葉をいただき、現在実店舗のサービスとして稼働しています。実機は冒頭のリンク、または以下から実際に診断を体験いただけます。
このプロジェクトを通じて、改めて確信したことが3つあります。
第一に、商品数が多く、お客様が「何を選んでいいかわからない」状態が起きている店舗ほど、AI診断ツールとの相性が良いということ。
第二に、接客ノウハウが特定スタッフに属人化している店舗は、それをAIに移植することで採用難・離職リスクの両方に備えられるということ。
第三に、AIチャットボット開発の主戦場は技術ではなく「言語化」のフェーズにある——ただし、その言語化を活かすには、適切な技術スタックと運用設計がセットで必要だ、ということです。
私が副代表兼CAIOを務める放課後等デイサービスの現場でも、ベテラン児発管(児童発達支援管理責任者)の判断基準をAIに移植する取り組みを進めており、月50時間規模の業務時間削減につなげています。業種は違っても、「現場の暗黙知をAI化する」という構造は共通しています。
おわりに
「接客の質を保ちたいが、ベテランの引き留めや採用にコストがかかりすぎる」「店舗がオンライン対応できておらず、機会損失が出ている」——もし同じような悩みを抱える経営者の方がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。
合同会社あとらくしょんでは、Dify・Claude を活用したAIチャットボットの受託開発に加え、人材開発支援助成金を活用したAI研修パッケージもご用意しています。初回のご相談は無料です。
「現場の知恵をAIに移植する」——その入口の伴走を、私たちにお任せいただければと思います。





コメント