
職員によって支援に差が出ること自体は、珍しいことではありません。同じこどもに対して、ある職員は声をかけて待つことを選び、別の職員はすぐに手を貸すことを選ぶ。どちらも、その場の判断としては成り立つことがあります。
問題になるのは、差そのものではなく、なぜそう判断したのかが言葉にならず、職場で共有されていない状態だと考えています。理由が共有されなければ、こどもは日によって違う対応を受けることになり、新人は何を手本にすればいいのか分からず、管理者もどこを支えればいいのかが見えにくくなります。
この記事では、支援の差をなくそうとする前に、管理者がまず言葉にすべきことを整理したうえで、判断の理由を共有する仕組みの作り方を紹介します。
この記事の要点
- 職員によって支援が違うこと自体は、必ずしも悪いことではありません。問題は、判断の理由が言葉にならず共有されていないことです
- 差を職員の力量の問題にすると、対策は指導や注意になってしまい、理由はますます言葉になりにくくなります
- 仕組みは小さくてかまいません。場面を1つだけ決めて判断の理由を1行言葉にする、違いを比べるのではなく理由を並べる振り返りをする、共有された理由を次の場面の選択肢として残す。この3つから始められます
差が出るのは、判断の理由が共有されていないから
同じ場面でも、職員によって対応が違うのは、現場ではよくあることです。こどもの様子、その日の体調、職員との関係性、時間の流れ。判断の材料は場面ごとに違いますし、職員一人ひとりの経験も違います。
違うこと自体が、悪いわけではない
たとえば、活動への参加をためらっているこどもがいたとします。ある職員は「もう少し待ってみよう」と声をかけずに見守り、別の職員は「一緒に行こう」と手を引いて参加を促す。どちらが正しいかは、そのこどものその日の様子が分からなければ決められません。
違う対応をしている職員を「統一できていない」とだけ見ると、職場の空気は、差を出さないこと自体が目的になってしまいます。でも、こども一人ひとりの様子が違う以上、対応がまったく同じになることのほうが、むしろ不自然なのではないかと思います。大切なのは、対応をそろえることではなく、なぜその対応を選んだのかが、職場の中で言葉になっていることだと考えています。
理由が言葉にならないと、育成も引き継ぎも進まない
判断の理由が言葉になっていない職場では、3つの困りごとが起きやすいように感じます。
1つ目は、こどもにとっての見通しの立てにくさです。日によって対応が大きく変わると、こどもは「今日はどうなるのだろう」と予測しにくくなります。特に、見通しが安心につながるこどもにとっては、理由のない揺れは負担になりかねません。
2つ目は、新人の学びにくさです。新人は先輩の対応を見て学びますが、対応だけを見ても、その裏にある判断は見えません。「なぜ待ったのか」「なぜ手を貸したのか」が言葉になっていなければ、新人は形だけをまねることになり、場面が変わったときに応用が利きにくくなります。新人育成全体の考え方については、放デイの新人育成が「先輩の背中を見て学ぶ」から抜け出せない理由でも書きましたが、「見て覚える」だけでは、判断の理由は伝わらないのだと思います。
3つ目は、管理者の支えにくさです。理由が分からなければ、管理者は「どこがうまくいっていて、どこで迷っているのか」を把握できません。結果として、声かけは「もっと統一しよう」「もっと気をつけて」といった漠然としたものになりがちです。
判断の理由を共有する、3つの仕組み
支援の差をなくすために、対応のマニュアルを細かくすることから始めると、現場は窮屈になりがちです。私が現実的だと思うのは、対応そのものではなく、判断の理由を言葉にする場面を用意することです。
1. 場面を1つだけ決めて、「なぜそうしたか」を1行言葉にする
すべての場面の理由を書こうとすると、記録は重くなります。そこで、1日のうちで気になった場面を1つだけ決めて、「なぜその声かけにしたか」「なぜ待つことを選んだか」を1行で言葉にする形にします。
育成の時間をどう設計するかについては、児発管が職員育成に時間を割けない理由は「時間の設計」にあるで書きましたが、同じ考え方です。新しい時間を増やすのではなく、すでにある振り返りや申し送りの場面に、「判断の理由を1行足す」という型を入れるだけです。書く側の負担が小さいからこそ、続けやすいのだと思います。
2. 違いを比べるのではなく、判断の理由を並べる振り返りをする
振り返りで「Aさんはこうした、Bさんはこうした」と並べると、どうしても優劣の話になりがちです。そうなると、職員は自分の判断を言いにくくなります。迷いを言葉にしにくい職場の話は、職員が「分からない」と言える職場は、なぜ育成が進むのかでも書きましたが、比べられる場では、理由はますます隠れてしまいます。
代わりに、振り返りでは「その場面で何を見て、どう判断したか」を並べる形にします。たとえば「こどもの表情が固かったので、まず待つことを選んだ」「時間の流れを考えて、参加を促す声かけを選んだ」。理由が並ぶと、違いは「どちらが正しいか」の問題ではなく、「場面によって使い分けられる選択肢」の話に変わっていきます。管理者の役割は、正解を1つに決めることではなく、理由の並び方を整えることなのだと思います。
3. 共有された理由を、次の場面の選択肢として残す
言葉になった理由は、その場で終わらせず、次に同じような場面が来たときの選択肢として残しておきます。「このこどもには、活動の前に声をかけて見通しを伝えると落ち着きやすい」「疲れている日は、待つ時間を長めに取るほうがうまくいきやすい」といった形です。
ここで気をつけたいのは、共有された理由を、誰にでも当てはまる決まりごとにしないことです。理由はあくまで「そのこども、その場面での判断の材料」です。決まりごとにすると、職員は場面を見る前に決まりを思い出すようになり、判断そのものが育ちにくくなります。残すのは正解ではなく、次に考えるための材料だと思っています。
よくある質問
Q. 支援の差をなくすために、対応を統一するマニュアルを作ったほうがよいのではないでしょうか?
安全に関わる最低限の決まりは別として、すべての対応をマニュアルで統一しようとすると、場面ごとの判断が育ちにくくなるように感じます。先に言葉にすべきなのは、対応そのものではなく、判断の理由です。理由が共有されれば、対応が違っても、職場の中で「なぜそうしたのか」が分かる状態に近づいていきます。
Q. 判断の理由を言葉にするのが苦手な職員には、どう声をかければいいですか?
理由をうまく言葉にできないのは、考えていないからではなく、言葉にする場面に慣れていないからだと思っています。「なぜそうしたの」と問いただすのではなく、「そのとき、こどものどんな様子を見たの」と、見たことに絞って尋ねるところから始めるのが現実的です。見たことが言葉になれば、そのあとの判断も言葉にしやすくなります。
Q. 理由を共有する場面を増やすと、職員の負担が増えませんか?
すべての場面を対象にすると負担は増えます。だからこそ、1日1場面、1行だけに絞ることが大切だと思っています。すでにある振り返りや申し送りの場面に組み込む形なら、新しい会議や書類を増やす必要もありません。小さく始めて、続けられる形を残すほうが、長い目では職場に残りやすいのだと思います。
まとめ:差をなくすのではなく、理由を言葉にする
職員によって支援に差が出るとき、管理者がまず言葉にすべきなのは、対応の正しさではなく、判断の理由です。理由が言葉になり、職場で共有されるようになると、違いは責められるものではなく、次の場面で使える選択肢になっていきます。
まずは、今日気になった場面を1つだけ思い出して、「なぜその声かけにしたのか」を1行で言葉にしてみてください。その1行から、支援の差を育成につなげる形は作っていけるのだと思います。
著者について
長 純(ちょう じゅん)。埼玉県入間市で放課後等デイサービスを運営する、現役の児童発達支援管理責任者(児発管)です。現場で職員育成の仕組み化に取り組む中で、療育人材育成AI「しえんちゃん・まなぶくん」の開発にも携わっています。製品については、よければ製品ページをご覧ください。
