
職員が「分からない」「迷った」と言える職場では、迷いが早い段階で言葉になり、それがそのまま育成の材料になります。逆に、言えない職場では、職員は分かったふりをして支援に入り、迷いは表面に出ないまま残ります。児発管や管理者ができるのは、「何でも聞いてね」と声をかけることだけではなく、迷いを言葉にする場面を仕組みとして用意することだと考えています。
支援のあと、「さっきの場面、あれでよかったのかな」と思いながら、そのまま記録を書いて帰った。そんな経験は、現場の職員なら一度はあるのではないでしょうか。聞きたい気持ちはあっても、「こんなことも分からないのか」と思われそうで、声に出せないまま一日が終わる。
この記事では、「分からない」が言えない職場で何が起きているのかを整理したうえで、迷いを言葉にする場面を仕組みとして作る方法を紹介します。
この記事の要点
- 「分からない」と言えない職場では、職員は分かったふりをして支援に入り、迷いが見えないまま育成の機会が消えてしまいます
- 言えるかどうかは、職員の性格や勇気の問題ではなく、迷いを言葉にする場面が用意されているかどうかの問題です
- 仕組みは小さくてかまいません。振り返りの型に「迷った場面」を入れる、上の立場の人が先に迷いを言葉にする、記録に迷いを残せる形にする。この3つから始められます
「分からない」と言えない職場では、迷いが見えないままになる
職員が「分からない」と言えない職場で起きているのは、迷いが存在しないことではなく、迷いが誰の目にも触れないまま処理されてしまうことです。
分かったふりをした支援は、あとから直しにくい
支援の場面で迷ったとき、その場で「分からない」と言えなければ、職員は自分なりの判断で進めるしかありません。目の前のこどもへの対応は止められないので、それ自体は仕方のないことです。
問題は、そのあとです。迷いが言葉にならないまま一日が終わると、児発管も先輩も「どこで迷ったのか」を知ることができません。知らなければ、次に同じ場面が来たときの声かけも、研修で扱うテーマの選び方も、勘に頼ることになります。分かったふりは、その場を穏やかに終わらせますが、育成の材料になるはずだった迷いごと消してしまいます。
特に新人職員は、この影響を受けやすいように思います。新人育成全体の考え方については、放デイの新人育成が「先輩の背中を見て学ぶ」から抜け出せない理由でも書きましたが、「見て覚える」だけの育成では、迷いを言葉にする機会そのものが生まれにくいのだと思います。
言えないのは、職員の性格の問題ではない
「分からない」と言えるかどうかは、本人の性格や積極性の問題にされがちです。でも、現場で見てきた実感としては、同じ職員でも、聞ける職場と聞けない職場で振る舞いは変わります。
違いを生むのは、迷いを言葉にしていい「場面」があるかどうかです。決まった場面がなければ、職員の側から不意に切り出すしかなく、それは忙しそうな先輩や児発管の前では、どうしてもハードルが高くなります。言えないことを職員の側の問題にすると、対策は「もっと積極的に聞こう」という精神論になってしまいます。それでは場面は増えません。
迷いを言葉にする場面を、仕組みとして用意する
「分からない」と言える職場にするために必要なのは、質問しやすい雰囲気づくりという曖昧な努力ではなく、迷いを言葉にする場面を先に用意しておくことだと考えています。私が現場で現実的だと思うのは、次の3つです。
1. 振り返りの型に「今日、迷った場面」を入れる
新しい会議や面談を増やす必要はありません。記事3で紹介した「場面を1つだけ言葉にする短い振り返りの型」に、聞く内容として「今日、迷った場面はあったか」を加えるだけです。
育成の時間をどう設計するかについては、児発管が職員育成に時間を割けない理由は「時間の設計」にあるで書きました。その型の中で、児発管の側から決まって迷いを尋ねる形にすると、職員は「切り出す勇気」を毎回使わなくて済みます。「分からない」は、本人が言い出すものではなく、場面の側が引き出すものだと思っています。
2. 児発管や先輩が、先に自分の迷いを言葉にする
「分からない」と言っていいかどうかを、職員はいちばん身近な上の立場の人の振る舞いで判断しています。児発管や先輩が「この場面は私も迷った」「昨日は判断を間違えた」と先に言葉にしていると、迷いを口にすることへの抵抗は下がっていくように感じます。
立派な失敗談である必要はありません。「今日の送迎の順番、迷ったんだよね」くらいの小さな迷いで十分です。上の立場の人が迷いを隠さない姿を見せることが、結果として、職員の「分からない」を引き出す土台になるのだと思います。
3. 記録や申し送りに、「迷ったこと」を残せる形にする
口頭で言いにくいことは、書く形なら残せる場合があります。記録や申し送りに「対応したこと」だけでなく、「迷ったこと」「判断に自信が持てなかったこと」を1行書ける欄や書き方を用意しておくと、迷いがあとからでも拾える形で残ります。
書かれた迷いは、次の振り返りの場面で「あのとき迷った場面、どうだった」と話す出発点になります。言える職場というのは、声の大きい人が何でも言える場所ではなく、静かな人の迷いも形に残って届く場所なのだと思います。
よくある質問
Q. 「分からない」と言えるようにするには、まず何から始めればいいですか?
雰囲気を変えようとする前に、迷いを言葉にする場面を1つ用意することから始めるのが現実的だと思っています。たとえば、すでにある振り返りや申し送りの場面で、児発管の側から「今日、迷った場面はあったか」と決まって尋ねる形にするだけでも、職員が切り出す負担は下がります。
Q. 何でも聞かれるようになって、先輩職員の負担が増えませんか?
場面が決まっていないと、質問は思い思いのタイミングで来るため、受ける側の負担はかえって読みにくくなります。振り返りのような決まった場面の中で、1場面だけに絞って扱う形にすると、聞く側も受ける側も見通しを持ちやすくなると感じています。
Q. ベテラン職員ほど「分からない」と言いにくいのではないでしょうか?
そのとおりだと思います。経験を重ねた職員ほど、「今さら聞けない」という気持ちは強くなりがちです。だからこそ、児発管や先輩といった上の立場の人が、先に自分の迷いを言葉にしているかどうかが効いてくるのだと思います。ベテランの迷いが言葉になると、支援の判断の幅そのものが職場で共有される材料にもなります。
まとめ:「分からない」は、場面が引き出すもの
職員が「分からない」と言えるかどうかは、職員の性格の問題ではなく、迷いを言葉にする場面が用意されているかどうかの問題です。場面がある職場では、迷いが早い段階で見えるようになり、それが育成の材料になります。
まずは、今ある振り返りや申し送りの場面で、「今日、迷った場面はあったか」と一度尋ねてみてください。その小さな問いから、言える職場の形は作っていけるのだと思います。
著者について
長 純(ちょう じゅん)。埼玉県入間市で放課後等デイサービスを運営する、現役の児童発達支援管理責任者(児発管)です。現場で職員育成の仕組み化に取り組む中で、療育人材育成AI「しえんちゃん・まなぶくん」の開発にも携わっています。製品については、よければ製品ページをご覧ください。
